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福岡地方裁判所 平成3年(わ)605号 判決 1992年2月03日

本店所在地

福岡市博多区吉塚五丁目一番三号の一

有限会社ポート・ハウジング

(右代表者代表取締役 松屋博美)

本籍

福岡県糟屋郡粕屋町大字長者原二一〇番地

住居

同町大字長者原三三四番地の一

会社役員

松屋博美

昭和二四年六月二二日生

右両名に対する法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官都甲雅俊出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人有限会社ポート・ハウジングを罰金一億三〇〇〇万円に、被告人松屋博美を懲役一年六月に各処する。

(罪となるべき事実)

被告人有限会社ポート・ハウジング(平成三年一〇月一日までの旧商号有限会社粕屋ハウジング。以下、被告会社という。)は、福岡市博多区吉塚五丁目一番三号の一に本店を置き、不動産の売買等を目的とする資本金三〇〇万円の有限会社であり、被告人松屋博美は被告会社の代表取締役としてその業務全般を統括していたものであるが、被告人松屋は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、他人名義で不動産売買を行い、架空名義で有価証券売買及び商品先物取引を行うなどの方法により、所得を秘匿した上、

第一 昭和六二年五月一四日から同六三年四月三〇日までの事業年度における被告会社の所得金額が一億五七七六万五九二五円、課税土地譲渡利益金額が二五八七万六〇〇〇円(別紙(一)修正損益計算書参照)あつたのにかかわらず、同六三年六月三〇日、福岡市東区馬出一丁目八番一号所在の所轄博多税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が二一五万六五二五円、課税土地譲渡利益金額が二〇六一万円で、これらに対する法人税額が五九四万三八〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もつて不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規の法人税額七三〇六万三〇〇円と右申告税額との差額六七一一万六五〇〇円(別紙(二)税額計算書参照)を免れ、

第二 平成元年五月一日から同二年四月三〇日までの事業年度における被告会社の所得金額が九億六七四九万三五二九円、課税土地譲渡利益金額が八五一五万三〇〇〇円(別紙(三)修正損益計算書参照)あつたのにかかわらず、同二年七月二日、前記税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が一五〇七万八三二四円で、これに対する法人税額が四六一万三三〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もつて不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規の法人税額四億一一〇九万三九〇〇円と右申告税額との差額四億六四八万六〇〇円(別紙(四)税額計算書参照)を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示事実全部について

一 被告人松屋博美の当公判廷における供述

一 同被告人の検察官に対する各供述調書

一 証人廣瀬健二の当公判廷における供述

一 合田溥(平成三年六月二七日付け)、廣瀬健二(同年七月二日付け本文四九枚綴りのもの、同月五日付け九枚綴りのもの、同月六日付け)、元山將男(同年六月二六日付け、同年七月六日付け)、深見加津代(同年六月一一日付け)及び本田時枝の検察官に対する各供述調書

一 収税官吏作成の脱税額計算説明資料

一 収税官吏作成の「売上高について」、「商品仕入高について」、「期末棚卸高について」、「租税公課について」、「雑費について」、「支払手数料について」及び「土地重課について」と題する各査察官調査書

一 福岡法務局登記官神野義視作成の平成四年一月六日付け登記簿謄本

判示第一の事実について

一 鈴木二三夫、高橋博、長岡廣征、梶原結城、長谷川幹晃、小出義明、藤野義昭、清水義夫、近藤貞治、境泉、千葉正亮、廣瀬健二(平成三年七月三日付け、同月四日付け本文一三枚綴りのもの)、元山將男(同月三日付け)の検察官に対する各供述調書

一 収税官吏の中村昌弘及び渡部秀男に対する各質問てん末書

一 収税官吏作成の脱税額計算書(自昭和六二年五月一四日至昭和六三年四月三〇日)

一 収税官吏作成の「高砂物件の取引について」、「大楠物件の取引について」、「三筑物件の取引について」、「家賃収入について」、「広告宣伝費について」及び「受取手数料について」と題する各査察官調査

一 収税官吏作成の各査察官報告書

一 押収してある確定申告書一綴(平成三年押第一六〇号の1)、譲渡対価証明書一通(同押号の3)

判示第二の事実について

一 証人八反田士朗及び同本田時枝の当公判廷における各供述

一 吉田眞砂志、渡辺邉正一郎(平成三年六月一一日付け、同月二四日付け九枚綴りのもの)、大束正明、原口壮、佐伯忠司、合田溥(平成三年七月二日付け、同月四日付け、同月六日付け)、若林玲子(同月一日付け本文五五枚綴りのもの)、廣瀬健二(同年六月二六日付け、同年七月四日付け本文一七枚綴りのもの)、元山將男(同年六月二七日付け、同月二八日付け、同年七月一日付け、同月二日付け、同月四日付け)、安武元、江藤隆介、田中昭彦、八反田士朗、大島高廣の検察官に対する各供述調書

一 収税官吏の二本松美智子、吉田正純、辻秀生、原田博、柳詠之、緒方哲也及び竹原博に対する各質問てん末書

一 収税官吏作成の脱税額計算書(自平成一年五月一日至平成二年四月三〇日)

一 収税官吏作成の「今泉物件の取引について」、「薬院物件の取引について」、「期首棚卸高について」、「減価償却費について」、「受取利息について」、「雑収入について」、「固定資産売却益について」、「北辰商品(株)における建玉等の状況について」、「有価証券売却益について」、「前田証券(株)の入出金明細について」及び「商品先物取引に係る売買損益について」と題する各査察官調査書

一 押収してある確定申告書一綴(前同押号の2)

(弁護人の主張に対する判断)

一 弁護人は、被告会社の平成二年四月期の脱税額の計算について、同期中に行われた本田時枝名義の商品先物取引は、真実は被告会社の取引であるから、公訴事実第二記載の実際所得金額から右本田名義の取引による損失を控除した金額を所得金額として脱税額を算定すべきであると主張する。

二 関係各証拠によれば、平成元年九月一日から同年一二月二〇日にかけて、北辰商品株式会社福岡支店において、本田時枝を委託者とする小豆の商品先物取引が行われ、その間、合計六回にわたり総額四九〇〇万円の証拠金が提供されたが、同年一一月一三日に一一九一万四四七五円、同年一二月二〇日に一〇六七万八七六〇円、合計二二五九万三二三五円の損失を出して取引が精算されたことが認められるほか、以下の事実が認められる。

1 本田時枝は、いわゆる愛人関係にあつた被告人松屋から、平成元年秋頃から数回にわたつて二〇〇〇万円前後の金を預かり、本田自身あるいは本田の父母の名義の定期預金にするなどし、同被告人の求めに応じて必要な金額を渡すなどしていた。

2 本田時枝を委託者とする商品先物取引は、昭和六三年及び平成元年に行われているが、昭和六三年に行われた白金の先物取引は、被告人松屋の勧めと助言によつて、一八九万円の証拠金を提供し、六一万円余の利益を上げた。

3 平成元年の小豆の先物取引は、右の白金の取引の約一年後に行われたが、その際の証拠金は、いずれも被告会社の簿外資金から出されており、その金額も前記のとおり合計四九〇〇万円と多額である上、六回にわたる証拠金の受け渡しは、いずれも被告人松屋の指示する場所で、少なくとも四回は同被告人自身によつて行われた。

本田時枝には、右証拠金を提供するだけの資金もなく、同女自身の手持金から出金した形跡もない。

4 右小豆の先物取引に関する計算書類等は、被告会社宛ではなく本田宛に送付されているが、商品の値動き等についての情報は、北辰商品の外務員である八反田士朗が電話で被告人松屋に伝え、これに基づいて、同被告人が、売買の注文を指示し、精算金を受け取った。

5 被告人松屋は、昭和六三年以降、北辰商品において、被告会社の従業員名義や架空名義を使用して、被告会社の簿外資金により頻繁に商品取引を行つたが、その各取引の規模、態様、証拠金の受け渡し及び決済の方法等は、平成元年中の本田名義の取引と基本的に異なるところがなかつた。なお、これらの取引について、当初は、取引の計算書等が被告会社の従業員である名義人元山將男の自宅に送付され、領収書も元山が書いていたが、平成元年秋頃、被告人松屋が元山に不信感を抱くようになつてからは、領収書は同被告人自身が作成し、計算書は義弟にあたる廣瀬健二宛に送付されるようになつた。

6 被告人松屋と本田との間では、平成元年の小豆商品取引を行うに際して、儲けが出ればその一部を本田に与えるという漠然とした約束があつた。

三 以上の各事実が認められる。なお、八反田の平成三年七月四日付けの検察官調書中には、被告人松屋が本田時枝名義の右取引に関して「応援してやらないかんな。」あるいは「尻ぬぐいしてやらな。」などと言つており、八反田としては本田自身が被告人松屋の応援を受けて右取引を行つたのかと思つた旨の供述記載があるが、前記認定と必らずしも矛盾するものではない。

本件取引の証拠金が本田時枝ではなく、被告会社の裏金から拠出されている点は、その取引の実態は被告会社との間になされたものと解する有力な証左といえる。検察官は、関係書類が本田方に送付されている点を捉えて、本田個人の取引と主張するが、同女が被告人の愛人であることを考えると、関係書類が被告会社の関係者ではなく、本田に送付されていることもあながち不自然とはいえない。更に、前記認定の被告人松屋と本田の関係、取引の経緯、取引の実態及び同時期の他の借名ないし仮名の商品先物取引との類似性に照らせば、平成元年中の本田時枝名義の商品先物取引は、被告会社の取引と認めるのが相当である。

四 したがつて、平成二年四月期の実際所得金額は、検察官主張の九億九〇〇八万六七四六円から、本田名義の商品先物取引に係る損失二二五九万三二三五円を差し引いた九億六七四九万三五二九円と認定する。

(法令の適用)

被告人松屋博美の判示各所為は、いずれも法人税法一五九条一項に該当するので、所定刑中懲役刑を選択し、以上は、刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により犯情の重い判示第二の罪に法定の加重をした刑期の範囲内で同被告人を懲役一年六月に処することとする。

被告人松屋の判示各所為は、いずれも被告会社の業務に関してなされたものであるから、被告会社については、法人税法一六四条一項により同法一五九条一項の罰金刑に処すべきところ、情状により同条二項を適用し、以上は、刑法四五条前段の併合罪であるから同法四八条二項により所定の罰金額を合算した金額の範囲内で被告会社を罰金一億三〇〇〇万円に処することとする。

(量刑の理由)

本件は不動産業を営む被告会社の経営者である被告人松屋が、不動産取引や商品先物取引などによつて得た被告会社の所得二期分合計一一億二〇〇〇万円余りを秘匿し、四億七〇〇〇万円余の法人税を免れたという事案であるが、その逋脱所得の内訳をみると、商品先物取引によるものが約七億八〇〇〇万円余、有価証券取引によるものが四一〇万円余、本業の不動産取引等によるものが一億六〇〇〇万円余である。逋脱税額四億七〇〇〇万円余は、いうまでもなく巨額であり、この種事犯の中でも極めて高額な事犯でありその金額自体、一般国民の納税意欲をそぐものである。しかも、不動産取引については、ダミー会社を用いて取引を行つたり、他人名義で契約するのみならず、発覚をおそれて取引の相手方にも被告会社の取引であることを見破られぬよう契約名義人として自己の知人に契約させるなど、手の込んだ偽装工作を行つている。又、商品取引の大半は、借名、仮名による取引であり、本件は用意周到に準備された計画的犯行であり、その態様ははなはだ悪質である。更に、犯行の動機は、不況に備えるというものであるが、格別同情するにはあたらない。しかも逋脱割合は九七パーセント強と極めて高率であり、被告人松屋の納税意欲の欠如を如実に物語るものである。更に、本件発覚後は、犯行を隠蔽するため、関係者を多数巻き込んで口裏を合わせ、あるいは口封じを試みるなどの行動に出ていることも考慮すると犯情は甚だ良くない。その結果国民の基本的義務である納税義務を不正に免れた点において被告人松屋の行為は強い非難に値するものであり、被告人両名の刑責は重大である。

他方、被告人松屋については、当公判廷において一応反省の態度が窺われること、本件起訴に係る脱税分については修正申告をなし、本税が支払い済みである他、その余の重加算税等についても分割払いで納付することとなつていること、交通関係の罰金前科を除き前科前歴がないこと等酌むべき事情も認められるが、本件犯行の規模、態様、その余の犯情に照らし、被告人松屋に対しては実刑をもつて臨むのが相当である。

よつて、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 金山薫 裁判官 井口修 裁判官 梅本圭一郎)

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